日本では誰が体位障害者の治療をしているか?
ピエール・マリ ガジェ、ベルナール ウェベール
(2006年2月13日東京御茶ノ水DICに於ける講演)


     今日は皆さんにお会いでき大変嬉しく思っています。それは、私は日本と日本人が大好きだからです。私の最良の友は、ポール・シュウサク・フジノという日本人の画家でした。義理の娘の一人は日本人です。彼らのおかげで、私は日本文化の奥深さを少しは理解する事ができました。そしてその日本文化に魅了されています。

     しかし、日本について判らないことがあります。それを皆さんに教えて頂くために、今回東京に着ました。それは、「日本では誰が体位障害者の治療をしているか?」という疑問です。

     間違っているかもしれませんが、私が知る限り、現在、日本で体位障害者の治療に当たっている臨床医は、たった一人です。それは私の友人でもあり、私が先駆者として尊敬するカケタ トシタカ先生です。そのカケタ先生には、今回の講演会にあたってご尽力頂き、深くお礼申し上げます。

     カケタ先生は、この講演会の準備を全て引き受けられ、フランス語で言う「手配人」を務められたようです。それで、今日の記念にカケタ先生にオーギュスト・ロダンの手の彫刻を差し上げたいと思います。

     それでは、これから「日本では誰が体位障害者の治療をしているか?」という私の質問の意味を説明します。その後で、皆様のご意見を伺いたいと思います。

     1973年から、私はISPGRの会議に毎回参加してきました。そこでは、多くの日本人の医師、セラピストの方々にお会いしましたが、彼らが体位障害者に関心を持っているという印象は一度も受けませんでした。ただ、これは日本に限った事ではなく、他の国でも、姿勢に関心を寄せた医師の大多数が、パーキンソン病、多発性硬化症、片麻痺など神経系の病気に苦しむ患者の体位の異常だけに注目しています。ところが体位障害は、体位制御に携わる器官の何れかに障害があって起こるのでは無く、体位障害者に関心を寄せる人は殆どいません。

     体位障害は従来の医学では認識されていません。そのため、治療してくれる医師が見つからず、患者が、何年間もその体位の異常に苦しむ事もしばしばです。これは本当に馬鹿げた事です。知ってさえいれば治療は簡単なのですから尚更です。

     そのためには、体位制御系はフィードバックで機能する事が判っていれば充分なのです。仮に、私の体が右に傾きつつある、という情報が出たとします。すると、私の体位制御系は、体を左に傾かせる筋肉に収縮の命令サインを出します。これは全く単純なことです。T時点で起こる事は、Tマイナス1時点で起こった事によって決まり、その後もずっと同様に決まっていきます。つまり、ここでは時間的に連続して起こる一連の事象が問題になります。ポアンカレの提唱以降、極く僅かな調整を加えることによって、この一連の事象の流れを 完全に変えられることがわかっています。これが、有名なポアンカレ・ローレンツのバタフライ現象です。

     体位制御系は非常に複雑なため、体位障害を治す「微調整」は目、脊柱、足の裏、顎など多くの部位で施すことができます。また起立姿勢を制御する非線形の動的系統に働きかけている、いう認識は無くても、そのバタフライ現象を利用して微調整が行われることもあり得ます。私が大きな成果を挙げているセラピストに関心を持つのは、このためです。もしかすると、彼らは、私達が「体位障害」と呼ぶものを、私達の知らない方法で、彼ら自身も意識せずに治療しているのではないか知りたいと思うのです。

     それでは、ここからはとても不得手ではありますが、英語で体位障害者について説明します。その後、「日本では誰が体位障害者の治療をしているか」という私の質問について、ご意見を伺いたいと思います。

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